スウェーデンの児童虐待予防

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子ども電話相談BRIS

ストックホルムのセーデルマルム地区

 

ストックホルムの繁華街は、かつては旧市街ガムラ・スタンの北側のエステルマルムの西側のあたりだった。王立劇場が面するハムンガータン通りから北へスチュールプラン広場のあたりや、王様通りと名づけられたクングスガータンの周辺にディスコやナイトクラブ、バー、共同浴場、ファーストフード・ショップなどが並んでいる。30年ほど前から欧米のブランド・ショップが増え、高級レストランやホテルも増えてきた。恐らく家賃が高くなったのだろう。若者たちは、スノッブになったこの地域を離れ、ガムラ・スタンの南隣りの島セーデルマルムへと移っていった。

南の島セーデルマルム地区は、南北2.5km、東西5kmほどしかない。島自体は南北1.5km、東西4kmほどだが、合併により北隣りのガムラ・スタンや西端のラングホルメン島、東隣りの最先端の再開発地区ハンマルディショースタッドなどがこの地区に入った。この狭い地域に12万人が住み、6才から15才の児童が8,000人いる。中学校は28校ある。住宅はすべて集合住宅で、保存住宅を除けば戸建ては皆無に近い。

セーデルマルム地区

市庁舎から見たセーデルマルム地区

セーデルマルムの中心は、旧市街から南へ下る通り、ヨッタガータン沿いと、それと交差するフォルクンガガータンの周辺。ファッション・ブティックやデザイン製品の店、モダンなギャラリー、ディスコ、バー、外国料理のレストラン、ファーストフード・ショップなどが並んでいる。いまやストックホルムでもっとも若い人たちを引きつける地域になった。日本で考えてもぴったりするところはないが、若者が多いという点では東京・原宿あたりに近いかもしれない。

児童虐待・非行予防職員

 

どうせ知るなら、いちばん問題がありそうな地域がいいのは当然だ。今、もっとも若者たちを集める地域での虐待や非行防止に、自治体はどう取組んでいるか、を知るなら、セーデルマルム地区しかない。

ストックホルム市の人口は約93万で、市内を14の区に分けて市民サービスを行っている。セーデルマルム地区はその一つで、保育や高齢者支援、障害者支援、社会福祉に3000人の職員が働いている。地区内に国会議事堂、王宮、大聖堂、世界でも最先端の再開発地区があり、レストランとバーの数がスウェーデンでもっとも多いという特殊な環境でもある。

私たちの予約を受けた地区児童虐待予防と防止課は、地区の庁舎ではなく、警察の会議室を借りてくれた。防止課の3名の女性が説明してくれた。どの人も屈強な体格の持ち主で、成長期の少年が襲撃としても決してひるむことはないと思われた。仕事に対する強い自信がそう思わせたのかもしれない。

挨拶して説明に入った。防止課の役割は、子どもへの虐待が発生する前に予防し、虐待から非行、いじめへの流れを阻止すること。子どもや親から虐待や非行問題に関しての相談があれば解決策を話し合う。地域の人や学校関係者などからの通報も大切なので、当事者からの相談と同じように対応する。また、地域をパトロールして非行の芽を摘むようにしている。警察とも密接に連携している。これらの業務のために13人の専門職員が働いている。

課は、自治体所属で国からも補助金が出ている。子どもや子どもとかかわる教師などを対象として、虐待や非行防止に取り組んでいる。例えば、万引きなどで警察に届けられた子どもに対して、防止課、教師、親などと今後の予防ネットワークを作るのが仕事である。

13人の専門職員のうちの5人は家庭支援担当で、問題のある子どもの親と面接し、支援をはじめる。また、子連れ再婚などの新しい夫婦に子どもの育て方を教える、学校に子どもを通わせる方策を考えるなど、実際の家族を見てどうすればよいかアドバイスしている。親支援はソーシャルサービス法に規定されており、防止課の大きな役割である。親支援の依頼は、半分はソーシャルセンターからあり、後の半分が医療センターなどを経由して親から直接来る。相談内容は、「子どもとどのように話していいかわからない」とか、「10代の子どもの育て方がわからない」といった、親子関係がうまくいかないという内容が多い。援助の方法としては、マルテ・ミーオmarte  meo・プログラムを採用していおり、実際の親子のかかわりをビデオに撮影し、後で親に自分の姿を見せながら色々指導する方法をとっている。

2人のアシスタントと呼ばれる職員は、落書きや万引きなどの軽い罪で警察に通報された若者にコンタクトをとり、面接と話合いを行う。落書きを防止するためにスプレー販売を禁止することはできない。落書きをしたいと思う心を生む原因を発見しなければ、問題の解決につながらない。

繁華街などを巡回してトラブルが発生しないようにパトロールする係は、フェルト・アシスタントと呼ばれている。4人配置されており、彼らは定期的に学校を訪問して、問題のありそうな若者に話しかけ、若者たちも彼らの顔を知っている。毎週金曜日の夜にフェルト・アシスタントや他のスタッフが繁華街を巡回するが、見知った顔がいれば話をしやすい。

2人の職員は若者に対して緊急に対応する係で、麻薬や性の問題があるときに予防するように動く。事件が起きてからの行動ではなく、その前段階を察知して対応する。

虐待を受けた子どもの精神治療チーム

虐待を受けた子どもの精神治療チーム

通報があった場合

 

警察から通報があった場合、子が通う学校と親を調べる。学校と相談し、定期的に行われる父母会のときに、15分懇談会(教員と親がマン・トゥー・マンで語る会)をもってもらい、防止課と親が話しあう機会を設ける。そこで、まず飲酒についての親の考えを聞く。親の飲酒習慣についても聞き、親の飲酒が止まらないと子の飲酒をとめることができない場合もあると説明する。最近のストックホルムっ子たちのアルコール・デビューは、13才半にまで早まっている。できれば子どもの前での飲酒を控え、未成年の飲酒を止めるように指導してほしいと依頼する。

飲酒による被害は大きいので、学校の子どもの個別家族単位や複数の家族グループにアルコールの害の話をしている。毎年28の中学校すべてで、アルコール中毒についての特別授業を実施してもらう。また、若者のたまり場に行き、店の経営者に飲酒している場面に出会ったら、防止課に連絡してもらうように依頼する。もちろん、若者たちにも酒の害について説明する。

とにかく早期発見、早期対応が重要で、警察、学校、防止課が連携することが大切。月初めの水曜日に3者で会議をもっている。情報交換だけでなく、お互いが顔見知りになることが大事である。また、学校の指導員とも連絡を取っている。

いちばんの問題はどこにも通報されない場合の対応だが、せっかく警察に通報されても、警察や社会局が取り上げないでうやむやにしてしまうことがあるため、関係者を対象とした研修をおこなっている。

毎年8月末に学校の新学期が始まるが、この時期に合わせて2つの警察、各学校、防止課が連携して、非行予防と健常な大人になるための教育をすることを目的とする秘密のプログラムを作る。

同時に中学1年生を対象にして、教員、生徒、牧師、防止課のアシスタントとフェルト・アシスタントが、ストックホルムを出て、森か海辺で合宿をする。子ども同士の問題は、互いをよく知らないということで発生することがあるため、子ども同士が仲良くなってもらうことも大事だということで実施している。子どもと子どもに関係する人たちが知り合いになるのもいい。フェルト・アシスタントが町で子どもたちを見つけるのにも役立つし、子どもたちが助けを必要とするときにも顔見知りになっているのはいいと、色々な面で評判がいい。

スウェーデンでは離婚が多い。このため、子どもは複数の親に育てられることが多い。親に本当の気持ちを話せない子もいる。そんな子どもの声を聞きとるために、各地にブリスBRISなどの子どもからの電話相談組織ができている。

DVや虐待を受けた子を一時的に保護する施設

DVや虐待を受けた子を一時的に保護する施設

児童虐待への対応

 

生後から1才までの幼児がいる家庭には、保健師が8回訪問し、さらに保育園での定期的な児童健康相談があるので、子どもが虐待を受けている可能性はチェックできるはず。医師や保育士は、虐待に気づいたら通告しなければならない、と1940年代から児童法で定められている。

 

それでも、アルコール中毒の親などからの子どもへの虐待はあり、どう見つけたらいいかは大きな問題である。この地区では、年間100-150件ほどの虐待がある。虐待を受けたり、性的な犯罪を受けた場合の「子どもセンター」があり、医師、弁護士、心理学者、警察などがどういう救済方法があるか相談する。日本の児童相談所の役割だが、専門家の組織なのでずっと力があるはず。親に育てる能力がない場合、スウェーデンでは里親家族に預けるのがふつう。しかし、里親に出さないようにするにはどうしたらいいか考えるのが、この課の仕事でもある。できるだけ家族と一緒に暮らすように仕向ける。それでだめなら里親に預けるしかない。しかし、里親でも、一時的なショートステイや、寝るのは自宅、昼間は里親宅にいるという方法もある。大切なことは、本当の親と子が一緒に暮らせることであり、そのためにできるだけ支援していきたい。

問題を抱える少年少女の相談支援を担当するストックホルム市の部門

 

説明は以上だった。視察に参加された子育てSOSの野津さんが、下記のように補足をしてくださった。

  • 子ども虐待の予防と防止も日本の児童相談所の役割の一部であるが、日本では虐待の発見と子どもの保護が中心である。日本の児童相談所が中心的に担っている子どもの保護は、「子どものセンター」という所に、子どもが虐待や性的嫌がらせなどを受けたときに、医師・弁護士・裁判官などがいて保護の必要性などを判断し、社会福祉の窓口に連絡をして対応しているとのこと。
  • スウェーデンでは、子どもを家庭から分離する場合は、ほとんどが里親に委託されている。その他、虐待を受けていたり、家庭が不安定な子どもが利用できる施設として、日中のみ家庭から離れて過ごすことができる施設、ショートステイができる施設などがある。日本の里親委託率は、要保護児童のうちの9.1%程度である。* 子ども虐待 家庭内外での体罰は法律で禁止されている。推計では、18歳未満の子どもの1%が虐待の被害にあっているのではないかと言われている。
  • * 虐待の詳しい実態は確認できなかった。国としてのデータは、www.bra.seで確認できるとのこと。
  • * スウェーデンでは、医師や保育士などが通告の義務を怠ると罰則規定があるとのこと。

 

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