デンマーク 森が保育園 

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図鑑を手に森を散歩。遊びから学ぶ子どもたち

コペンハーゲンから車で30分ほどの住宅地にある保育園を訪問しました。園の前で50歳くらいで頭が薄くなった園長のオーヴェさんが待っていてくれました。庭にはブランコや滑り台、テーブルや椅子が見えました。敷地の5分の1ほどのところに保育園の建物がありました。靴を脱いで建物に入りました。園児用の部屋は2つで、それに事務室、園児用と職員用トイレ・シャワーの部屋が各1室でした。

朝の保育園

まず部屋で朝の会があり、私たちが紹介されました。地球儀でデンマークと日本との位置関係を教わり、デンマークの歌と日本の歌が披露され、会は終わりました。ここには26人の園児がおり、森には毎日交代で半分ずつが行くことになっているそうです。今日は12人の園児班が森に行き、14人が残ります。また、毎週木曜日には夕方4時に親たちが森にきて、一緒に夕食をとるそうです。

森に行く園児たちは、一斉にトイレに行きます。

必要なものはリヤカーで運びます

晴天なので、レインコートは持ちません。靴も長靴ではなくてふつうのズックです。リュックには、弁当と飲み物と着替えが入っているそうです。

全員の準備ができたらリュックを背負って出発です。誰と誰が手をつなぐと決め、12人の園児と2人の指導員、女性のメッテさんとオーヴェさんが園の門を出ていきます。

メッテさんが列の先頭に立ち、オーヴェさんがいちばん後ろについて、しばらくは住宅街の歩道を歩きます。車がくると、指導員が「車に注意」と叫びます。

森への途中で時々人数確認

住宅街から、信号を渡り、やや大きな道路に入りました。道の両側とも馬の牧場でした。子どもたちは見慣れているのか、馬を見ても反応しません。私は遠足らしいと思い、ちょっと興奮しました。

男の子とつないだ手の平が汗をかきはじめました。時計を見ると、もう20分も歩いています。みんなはどこへ行くか知っていますが、私は知りません。あとどれだけ歩くのだろうか。遠く感じはじめました。

ついと右へ折れ、住宅街に入りました。住宅街といっても、家の4倍くらいの庭がある邸宅が続きます。

ふいに子どもたちが歓声を上げ、手を離して左手に走っていきました。丘のような緑が見え、ふもとにコンクリートの壁がありました。ここからは車が入れないから安全なのでしょう。看板があり、中世の砦の跡と書いてあります。

鹿の苑へは坂を上ります

先頭の子どもたちは勢いよく砦を駆け上がり、頂上で私たちを待ちました。

再びメッテさんが先頭に立ちました。砦の向こう側で下り、崖の登りに取り付きました。高さ10mほどの登りでしたが、私には少しきつい傾斜でした。子どもたちは慣れたものです。苦もなく登り、草地を歩いていきます。

その先に、金網製の入り口がありました。入り口の両脇から、金網がずっと張られています。この中が鹿の園という名前の公園です。中世の王室の鹿狩りの場だったところで、鹿が出ていかないように金網を張っているのでしょう。

中に入ると子どもたちが指差していました。「ほら、鹿だよ」

木の間のずっと奥のほうに、茶色の生き物が30頭くらい見えました。こちらに尻を向けて、避けているように見えます。鹿の園では、野生の鹿に餌付けはしていないようです。すぐに森の奥に姿を消しました。

みんな勝手に歩いていきます。12人ですから、いつも指導員の目に入っているのでしょう。リュックから取り出した「きのこ図鑑」を片手に地面を探索する子、落ちていた枝を手に歩く子、スキップする子、メッテさんにまとわりつく子、いろいろです。

みんなこの木が大好き.

やがてオーヴェさんが決めた拠点につきました。付近には数本の倒木があります。すぐにリュックを投げ捨てると、女の子たちが一番高い倒木に登りました。何回かきてなれているのかもしれません。へっぴり腰でなかなか登れない男の子がいます。倒木を何本か立てかけて、その中心に座る女の子たちもいます。

「しばらくは好きなことをやっているので、お話します」とオーヴェさんが言いました。森が保育園の子どもたちは、運動能力が発達していきます。従って脳の働きもすごくなります。3才から6才の子どもたちは、制限された中で生活すると成長が妨げられます。森のスペース自体が子どもたちに可能性を与えてくれます。自分の手で触り、五感を使う、それを自然の中でやることが大切です。四季の変化で生きることを感じるし、鹿の行動を見て繁殖などの生理もわかります。自由に遊んでいいとはいえ、枝を折ってはいけないとか、きのこや動物の糞に触ってはいけないといった決まりはあります。しかし、子どもたちは自分の能力を知っているので、無理はしません。下りられない高さまで木に登ることはしないので、子どもたちを信頼できるのです。

大きな木の下で休憩です.

デンマークの法律では、保育園の部屋の面積は子ども一人につき2m2あればいいと決めています。しかし、この面積では、子どもには狭すぎます。そういう現状を知ると、親たちは、のびのびとした森の保育をさせてやりたいと望みます。子どもは森になれるまでは時間がかかるけど、なれれば好きになります。特にはじめは雨の日や雪の日はいやがりますが、これはすぐに乗り越えます。

森が保育園は1970年代に入ってから増えてきました。保育に関わる人たちや親たちが、自然の中で時間を過ごすメリットを理解してきました。また、2002年に国が保育園に対して、自然について学ぶ機会を作るように求めました。しかし、最近になって多くの自治体は森が保育園を減らしはじめています。経済の状況が悪くなり、どの自治体も経費削減に追われているからです。森が保育園は、普通の保育園より人件費が多くかかります。ふつうの保育園に待機児童がいないのに、森が保育園に待機児童がいるのは、子どもを入れさせたい親より、保育園が少ないからです。もっと増やせと求める親たちと、減らそうとする自治体とのせめぎあいがあります。

「さあ、たくさん遊んだから、昼食にしよう」 オーヴェさんが叫びました。

私は、えっ、もう?と思い、時計を見ました。11時でした。私の昼食にはまだ早い時間です。でも、こどもたちは森まで2kmほど歩き、さらに森の中で500mほど歩き、木登り、追いかけっこ、木の枝につるしたロープでブランコ、きのこ観察、倒木たたきと、目いっぱいに遊んでいます。さぞ、お腹がすいたことでしょう。

自分のリュックを持ち、遊んでいた友達と一緒に、思い思いの場所に腰を下ろして、お弁当箱を取り出しました。入っているのは、みんなサンドイッチです。間に挟んであるのは、チーズ、きゅうり、ハムなど。茶色のものはチョコレート・ペーストでした。

水やジュースを飲んだら、お昼ごはんはおしまい。全部食べない子もいます。ちょっと食べたら、また遊びたくなったのでしょう。

弁当箱をリュックにしまったら、木登り、追いかけっこ、ブランコ、自然観察の再開です。私の弁当を片付けて、ふと見ると、子どもたちの人数が減っていました。おかしいなと人数を数えると、8人しかいません。

「オーヴェさん、誰かいなくなりました」と園長に声をかけました。

オーヴェさんは周りを見回して答えました。「食後はトイレに行くのです」

「トイレ? ここにトイレがあるのですか?」

「いいえ、自然のトイレです。木の陰や葉っぱの陰にいくらでもあります」

そうですね、こんな森の中にトイレを作るわけがありませんね。

自然をトイレにする。ここでは、人も鹿と同じになります。

オーヴェさんが地面で何か見つけました。落ちていた枝の先で持ち上げました。 子どもたちが集まってきました。動物の骨のようです。

「ウサギかな」

「ウサギってこんなに大きいかな」

「じゃあ鹿?」

「鹿はもっと大きいよ」

「どこなのこれ?」

「顔じゃないの?」

「カラスじゃないかな」

「持ってかえって誰かに調べてもらおう。よし、もう少し探してみよう。もっと見つかるかもしれない」

みんなは目を皿のようにして地面を探しはじめました。誰かがみつけたものをみんなで見て、それが何か考えます。意見を引き出すのはオーヴェさんの仕事です。きのこだったら、図鑑を持つ男の子に調べるように頼みます。そのときの彼の生き生きした表情は忘れません。将来はきっと菌類学者の道を選ぶことでしょう。子どものときにこれだけきのこの魅力に取り付かれていれば、進路選択のときに迷うことはないでしょう。

デンマークのナメクジは大きい

大きな黄茶色の虫がいました。見た目は、気持ちがよくない生物です。ナメクジの一種だそうです。日本にいるナメクジとはぜんぜん違います。大きさは3倍くらいあります。これはきのこを食べるという説明でした。子どもたちは見慣れていると思いますが、じっと見て説明を聞いていました。

鹿の足跡も見ました。足跡からでも、爪が2つあることがわかります。そこからオーヴェさんは、爪が2つというのは指が2つと同じと教え、指が2本ある動物の説明をしました。鹿、らくだ、キリン、豚など。ついでに指が1本の動物として馬をあげました。指が2本あると岩場などの足場の悪いところも歩きやすい。指が1本だと草原で早く走ることができる。学校の黒板の前とか、教科書を読んで教わるより、さっき見かけた馬や鹿の姿や、その足跡を見ながら受ける説明のほうがずっと確実に頭の中に入っていくような気がしました。

歩いているうちに、みんなそれぞれで何かを持っていました。なんでもない小枝、氷河が削り取った岩の破片、動物の骨、小枝に生えたきのこ、古い落ち葉、鳥の羽など。

みんながざわついたので、何かなと思いました。「元へ戻ったのよ」とメッテさんが教えてくれました。そういえば見たことがある場所です。みんなのリュックが散らばっていました。時計を見たら、1時間もたっていました。そんなに長い間、さまよっていたとは思いませんでした。面白かったのでしょう。

リュックから飲み物をだし、一休みします。後片付けです。そして、適当に森の奥へと姿を消します。みんな森での保育になれています。

みんなが揃うまで、古い丸太の周りに集まって待ちました。腐りかけた丸太を、拾った小枝でたたいています。ここに来たときには直径30cmくらいはあった丸太は、踏まれたり、たたかれたりして、いまではぼろぼろに崩れています。丸太の体をなしていません。まるで土になろうとしているかのように見えました。

岩の破片集めの子は、片手にいっぱいの戦利品を私たちに見せに来ました。さらにズボンのポケットから取り出してみせてくれました。きのこ図鑑少年は、小枝に生えた黄色のきのこを見せにきました。

リュックをまとめ、背負います。忘れ物はないか、落し物はないか、周囲を見回します。そして今日の戦利品を手に、三々五々と出発です。

帰り道は、くるときよりは足取りが重かったように思います。元気な子は先に歩き、私たちまで長い列になりました。私自身も、それなりに疲れていました。ふだんは毎日1時間は歩いているのですが、今日はもっと歩きました。

森を出たら、また誰かと手をつなぎ、揃って歩きます。来るときはすぐのように思えましたが、帰りはなかなか着きませんでした。

今日も無事に終わりました

保育園に戻ると、みんな手を洗いにいきました。

職員がおやつを用意しています。小さな焼き菓子とベリーのジュースです。みんな列を作って、配られるのを待ちます。われ先にと争ったりしません。

4時間ほどの遠足のあとは、甘いおやつがとてもおいしく感じられました。迎えのお母さんが来た子も、おやつを食べるまでは帰りません。食べ終わると、飲み物のコップを片付けます。

朝から夕方まで、楽しい時間を過ごすことができました。私たちは、参加させていただけたお礼を言い、日本から持っていったクッキーを渡しました。オーヴェさんは、箱を開けて、子どもたちみんなに見せました。明日のおやつにするそうです。40個持っていったので、みんなに行き渡るでしょう。

森が保育園の創始者エラ・フラタウ女史と子どもたち

 

 

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