ヘルシンキの知的障害者親の会とグループ住宅

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向かって左がグループ住宅、右が重度障害者のデイサービス

知的障害者支援57(親の会)が運営する重度障害者用グループ住宅、オスカリンプイスト住宅を視察しました。以前の施設長で、いまは親の会のサービス部長のエリナ・ライケ=オヤネン女史が説明、案内してくれました。ヘルシンキの知的障害者支援では、親の会の存在が大きな役割を果たしています。数は少ないにしても質のいいグループ住宅、デイケア、余暇活動は日本で参考になると思い、多くの方たちにご案内してきました。今回は親の会と、運営するグループ住宅の一つをご紹介します。

アパートの部屋の一つ

知的障害者支援57は、全国団体の親の会のヘルシンキ支部。当事者と親、親族が構成する会で、知的障害者とその家族が、健常者と平等に社会の一員として生活できるようにすることを目的としています。1957年に親と専門家(ソーシャルワーカー、作業療法士など)で設立しました。会員は700人ほどですが、ヘルシンキ唯一の障害者団体なので、会員でない障害者も求められれば支援します。他の障害者団体、自治体とも協力して、学校の知的障害児の状況調査や、改善策の提案、講演会なども行っています。知的障害者には、地方自治体が余暇活動の機会を提供しなければならないという法律があるので、ヘルシンキ市はこの会に30人分を委託しています。余暇活動については別のコラムに書きます。キャンプは夏に10回、冬に3回行い、児童向け、老人向けなど、対象を絞って実施してきました。利用者は自己負担なしで、市がすべて支払います。財政の7%はスロット・マシン協会からの補助金、3%は利息。グループ住宅、キャンプ、アクティビティの費用は、ヘルシンキ市からの補助金で運営しています。家族への支援活動としては、傾聴活動、相談活動、週末のリクエーション活動で家族を休息させる、夜や週末に障害児を預かる、社会制度でどのような補助が得られるかの講習会開催、家族間の情報交換の場設置などがあります。

親の会を援助しているスロット・マシン協会は、医療と福祉を充実させるためにカジノやスロット・マシンを使って資金をつくる国営の団体です。フィンランドでは人の集まるところはどこにでもスロット・マシンが置かれていて、時間が余っている人がいつでも資金作りに協力できるようになっています。日本もカジノができるようですが、医療と福祉の資金作りのためのカジノを提案してほしいですね。そのうちにモーターレースも、競馬も、医療と福祉の資金作りのための事業になってほしいです。フィンランドだからサウナは必需品

親の会は設立後わずか3年の1960年に、ヘルシンキの東50kmにあるポルヴォーに知的障害者用住宅を建て、運営を開始しました。その頃のヘルシンキ市の重度知的障害者用住宅は、6人部屋かそれ以上でした。親の会としては、トイレ・シャワー付のアパートに一人で住んでほしいと願っていたのでしょう。

1990年代の終わりから、ヘルシンキ市が補助する住宅はヘルシンキ市にあるべきだという意見が出てきました。ポルヴォー住宅は建てて40年が経ち、改修が必要になるという状況もありました。スロット・マシン協会からの補助金と市からの土地の提供、福祉専門のローン会社から借り入れの目途がついたので、中央駅の東8kmの住宅地にグループ住宅を建築し2000年に移住しました。ヘルシンキ市の政策として不思議なのは、6人部屋ソフィアンヘレトの利用を解消して、トイレ・シャワー付のアパートを使用しはじめたのは2014年、ヘルシンキの西27kmのキルックヌンミ自治体のキルンマキに住む100人をヘルシンキのソフィアンヘレトの庭の新しいグループ住宅に移すのは2018年から19年になります。市の仕事よりも、親の会の住宅建設を優先したようです。

サウナの前には暖炉付のリラックスルーム。親が使いたいものを設置している

新しいグループ住宅には親たちの意見が盛り込まれました。当時は5人のグループがいいとの考えがあり、その流れに沿って建てられました。親の会としては、グループ住宅の見本として建て、終の棲家にしたいと考えていました。でも今は4人のグループがいいとの考えが主流になっています。重度知的障害者であってもしっかり意見は言う。当事者からは2人で住みたい、一人では寂しいからグループで暮らしたいなどの希望が出ています。日本のグループホームとは違って、トイレ・シャワー付で24.5㎡のアパートが5つあるので、寂しいと思う人がいても不思議はないですね。

外出にはリフト付きタクシーが利用できる

ここには住人5人のユニットが2つと住人6人のユニットが1つあります。スタッフは8人で、内2人は夜勤専門、昼間は6人がシフトを組んで支援しています。入居者の年金は1000ユーロで、家賃は300ユーロ、食費は500ユーロなので残金はわずかですが、生活できないわけではありません。

住人たちは、朝6時から7時に起きて、自分のアパートのトイレ、洗面所を利用します。徒歩や車いすで共同の食堂に行き、朝食をとります。そのあと、建物に隣接するデイサービス部門に行き、夕方まで過ごします。

アパートの広さは24.5㎡+共同スペースですが、いまのグループ住宅の基準では寝室+居間+キッチン+トイレ・シャワーで25㎡に加えて共同スペースが必要です。

オヤネン女史は悩んでいます。施設ではない、住宅だとは思っても、重度知的障害者の場合はヘルパーが支援しないと暮らしていけない。当事者は一人ではほとんどのことができない。自宅での暮らしと言っても、当事者が何かやりたいと思ったら、支援が必要になる。ベルなどでヘルパーを呼びます。ヘルパーが預かったアパートの鍵を使ってドアを開けて、住宅に入ります。個人の住宅にはこんなことはできない。ここではそうせざるを得ない。施設的にならざるを得ない。脱施設とはどんな形が本来の姿なのか、悩んでいるそうです。

職員が支援する、世話をするという意識でなく、一緒に生きるという感覚が大事なのかもしれないと話してくれました。

この住宅を最初に視察してから15年ほどが経ちました。いつ訪問してもきれいに保たれています。部屋のカーテンなどのインテリアは、住人の意見を取り入れているそうですが、統一したセンスがあって落ち着きがあります。最近建てられた公営や民営の障害者住宅も見てきていますが、親の会運営の3つの住宅には愛情のようなものが感じられます。それも母親の愛情です。さすがだなと心を打たれるものがありました。ヘルシンキ市が、さまざまな活動を親の会に優先的に委託しているのも、納得できる気がしました。

 

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