ストックホルム市の高齢者訪問介護

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ストックホルム市セーデルマルム地区の中心地

☆ストックホルム市セーデルマルム地区査定員ホースンソン女史から講義 

 20171231日のストックホルム市の人口は935,619、うちセーデルマルム地区の人口は129,76665歳から79歳は18,172人、80歳以上は4,805人、65歳以上が占める割合は17.7%。一人の女性が生む子どもの数は1.61で、市内14地区の中でもっとも少ない。この地区は王宮、大聖堂、国会議事堂を含む旧市街と、その南に広がる若者に人気がある古い住宅街セーデルマルム島からなっています。

 スウェーデンの高齢者介護は、国がその外枠を作り、運営は各自治体に任されています。ストックホルム市では、高齢者に介護依頼があったら、自治体職員である査定員が高齢者の自宅を訪問して状態を確認し、査定するようにしています。たとえばセーデルマルム地区の老人から依頼があるとします。それは本人から電話でもいいし、福祉事務所への相談でもいいし、家族からでも、友人からでも、医療関係者からでも、近所の人からでもいいです。すぐに私たちはその方の家族関係、知人関係、近所の人、医療機関の人などに会い、その人となりを調査します。その上で、その方の自宅を訪問して本人にお会いして、いまできること、できないこと、やってほしいことを話してもらい、記録します。このときに、介護付き特別住宅への移転の希望も受けます。査定員は老人に、市としてできることを伝えます。それに対して、本人が満足できない場合は、市に対して苦情申立てをする手続き方法を教え、申立てを受けます。それから先は査定員は関与せず、苦情審査委員会の仕事になります。

訪問介護を受ける老人

本人が市の対応策に合意したら、あとで書類にまとめ、家族も含めて同意のサインをもらいます。もし訪問介護が必要な場合は、本人が介護業者の希望を出すこともできます。業者の情報は、インターネットを通じて得ることになり、パソコンなどを使えない高齢者にはむずかしく、家族が判断しての希望が多くなります。希望がない場合は査定員がその本人の状態や地域性などを考慮して、最適な民間介護業者を選択します。本人が受け入れたら、業者に介護を委託します。

これからあとは訪問介護業者の担当になります。訪問介護業者は変更や問題があるたびに報告し、査定員は年に1回、本人の状態を確認するために訪問します。

 セーデルマルム地区の65歳以上の高齢者の13%が訪問介護を受けています。軽い人では月に1回、重い人では112回と、頻度の差は大きく、最初は少なくても、やがて頻繁になります。できるだけ自宅で住むことができるように、介護の量を増やしています。1日最大8回、月240時間までの利用できますが、例外的に124回利用という例もあります。しかし、8回以上の利用する場合は、介護付特殊住宅(認知症グループホームやナーシングホーム)の利用を勧めます。病気や障害があり、在宅で訪問介護を受けるだけで生活できず、介護付特別住宅に入居している老人は3%です。

査定員は一人で約100人の高齢者を担当しています。非常に忙しいし、ことあるごとに人員の増加を上部に要求しています。

私の聞き間違いではないかと思った。一人で約100人を担当なんてできるのだろうか。日本のケアマネージャーは、一人で35人以内の担当がのぞましいとされているが、それでも残業なしではこなせない人が大半だ。残業は原則としてしない、休暇は年に最低でも5週間という国で一人の査定員が100人もの利用者を担当できるのは、査定を補助するシステムがしっかりしていて、さらに事務能力が優れているからだろう。

 セーデルマルム地区では、1994年まで市の職員が訪問介護を担当していました。そのあと一部が民間委託になり、2002年から利用者は市の訪問介護事業か、民間の業者か選択できるようになりました。いまはほぼ100%が民間の介護業者委託になっていて、増減はありますが、120社前後が関わっています。ストックホルム市あるいは隣接するナッカ自治体なども100%が民間委託で、250社程度が関わっています。うち20社が大手であとは小規模です。1991年に穏健党が政権の座についてから、国全体が福祉事業の民営化に弾みがつきました。

 孤独死について質問が出た。離婚が多く、一人暮らしの方が多いので、孤独死はあります。この地区には、入院歴がなく、友人や親族が近くにいない高齢者を探しだす担当の人が一人いて、しっかり監視しているので、なんとかカバーできています。認知症の方が退院する場合は、病院からこちらに1人では危ないと連絡があり、私たちで玄関にカメラをつけるとか、ドアの開閉のチェックなどの対応を考えます。

 多忙な業務の担当者なので、このあたりでお話を切り上げてもらった。続いて現場の介護業者を訪問した。

☆訪問介護業者アレリス介護サービスのエーヴァ・クヴィスト女史から説明

アレリスは投資会社が経営する医療・介護企業。2017年の売り上げは100億クローネ(約1,300億円)、スウェーデン、ノルウェー、デンマークに11,000人の従業員がいる。クヴィスト女史はセーデルマルム地区運営責任者。

 2011年に視察したときはストックホルムで2か所だったが、2017年にはセーデルマルム地区に5か所、ストックホルム市全体で10か所に増えた。

車椅子でも自宅を好む高齢者

アレリス介護サービスはセーデルマルム地区では1,000人の障害者、高齢者を訪問介護しています。うち25%は緊急ボタンのみの利用、75%は週1時間から1日10時間の利用とばらつきがありますが、掃除、洗濯、買物支援、シャワー浴び、配食などのサービスを提供しています。利用者の10%の人がベッド移乗が必要で、リフトは市から貸与されています。利用者の年齢は37歳が最も若く、最高齢は100歳、平均85歳前後。男性の最高齢は94歳ですが、この年齢で独居できる人はごくわずかです。かつては75歳くらいからヘルパーの世話になっていましたが、いまは85歳から初めてヘルパーを使う人がふつうになりました。ストックホルム市全体の高齢者介護には250の民間企業がかかわっています。アレリスは中くらいの規模ですが、スウェーデン全体で3500人の職員を雇用しています。いまは選択肢が多く、会社にとっては厳しいのですが、利用者にとってはいい状況と思います。訪問介護は、国が大枠を決め、自治体がこまかなことを決めています。業者の選択は利用者の自由ですが、高齢者はパソコンを使えず、自分では選択できないので、家族の考えが強くなっています。この詰所の雇用ヘルパーのシフトは早朝から夕刻30人、夕刻から夜10人、22時から7時の間は2人(40件)、チーフ2人、5人がシフト作りなどの計画担当で約50人。できるだけ同じスタッフが同じ利用者を介護するようにしています。ヘルパーの年齢は20歳から55歳で、平均年齢は40歳。40%が男性で、かつては女性の仕事でしたが、男性も就職するようになってきました。しかし、正規のヘルパー教育をうけていない素人が多く、社内教育が重要になっています。訪問介護のヘルパーに資格はもとめられませんが、最近はナッカやハーニンゲ自治体のように、最低でも高校の職業コースを卒業した看護助手程度の資格を求める自治体が増える傾向にあります。1日の業務は、毎朝15人くらいのスタッフが詰所に集合して打合せから開始。事務所から鍵を受取り、利用者宅を訪問。午前中に1人で5人から15人のケアをします。まず利用者の名前を呼んで朝の挨拶から始めます。下町的なかかわりが必要な地域で、話し方に親しみを表現することが必要。ベッドから起こし、トイレ、朝食、片付けをして終わります。最も忙しいのが朝。昼は昼食、片付け、トイレ。午後はお茶とトイレ、夜は夕食、片付け、トイレと多忙です。深夜はトイレ誘導、睡眠の見守りと体位交換、緊急アラーム対応が主な仕事になります。アラームが鳴ったら30分以下に行く義務があります。深夜勤務は深夜希望の人が担当します。深夜手当がつき、シフトも2週間深夜勤務、2週間休みというように変則なので、希望者は少なくありません。妻に先立たれた夫の心の介護、妻に離婚された夫の心の介護がむずかしく、そういう方には女性よりも男性スタッフが役に立ちます。また、朝の寝起きに暴力を振るう人がおり、ガードマンを連れていくこともあります。利用者とヘルパーの相性を考える必要がありますが、誰が行ってもだめという人もいます。無理に合わせるのではなく、合う人スタッフが見つかるまで次から次へと変えていきます。高齢の方は簡単には心を開いて下さらないので、信頼を得るには3か月以上かかります。

この住宅の3階に住む方を訪問した

 

スウェーデンは高齢者施設をなくし、特別住宅だけに絞っています。高齢であっても病気や障害がなければ特別住宅への入居ができなくなりました。そして多くの高齢者が自宅で最期を迎えたいと望んでいます。このため自宅で亡くなる人が増え、家庭でのターミナルケアが重要になりました。ターミナルケアは医療スタッフと共同で行いますが、スウェーデンの場合は医療は県の管轄、介護は市の管轄と一人に二つの行政なので、横の連携が大切になっています。

この地域の女性は食べられなくなったら、気管切開、胃ろうなどはせずに、食べないで自然死を望む方がほとんどです。食べられなくなったら、手術はせずに死にたいという方は、ヘルパーにそう意志表示します。私たちは査定員に連絡し、その意志を尊重して水分だけとってもらいます。夏は、水分補給が重要ですが、トイレ問題などがあり、高齢者は水分をとりたがりません。朝訪問したら1人で亡くなっていたという例は夏に多くなります。

自宅で亡くなった場合、スウェーデンでは家庭医に連絡し、死亡診断書を書いてもらえば法律の規定に則っての処置になります。医師が検視すれば、警察は関与する必要はありません。遺体は緊急電話の112番か葬儀会社に連絡すると遺体保管所に運ばれて冷凍され、家族はゆっくりと葬儀場の空きを調べ、葬儀の日取りや場所を計画できます。亡くなってから1か月以内に葬儀、埋葬することが決められていますが、2週間から1か月後あたりの葬儀がふつうです。埋葬は教会の墓地や市営墓地、あるいは定められた場所や海への散骨になります。遺体の移送、冷凍保管、葬儀、火葬、埋葬、25年間の墓地使用などの費用は、収入の0.2%程度の負担金を毎月支払っている人はほぼ無料です。もちろん死因がわからない場合には、警察が死亡解剖まで実施します。

森の教会墓地にある散骨の丘、ミンネスルンド。ここのどこかに散骨されます

日本の国策では、高齢者は施設介護から在宅介護へ、病院医療から在宅医療へとシフトするような姿勢ではありますが、実際に高齢者が自宅で亡くなったら、大変な苦労を家族に負わせることになります。特に老々家族には大きな負担です。夫が風呂場で倒れて亡くなっていたのを発見したときの妻の心の動揺、もし妻が夫を風呂場から動かして、ベッドへ運んだら、あとで警察から殺人を疑われ、遺体解剖までやられることもあります。事件扱いされるので、解剖は拒めず、その費用は妻の負担になります。単にベッドで亡くなっていた場合でも、かかりつけの医師がいる場合には、連絡して遺体を見てもらって死亡診断書を書いてもらいます。それで死因がわからない場合には、警察に連絡して検死をしてもらいます。検死が終わるまで、遺体に触れることも移すことも許されません。病院や高齢者施設で亡くなれば、こういう手続きは施設の担当者がやってくれるので、残った伴侶は大きな負担にはなりません。であれば、残される者のことを考えれば、施設で亡くなるほうがいいとなってしまいます。日本でも、自宅で亡くなる場合の家族の負担の軽減まで考えるべきでしょう。死去してすぐにお通夜、葬儀という習慣を改めて、死去したら冷凍保管し、ゆっくり葬儀という方向に変えていけば、家族が慌てて葬儀業者に依頼することはなくなります。最近は冷凍庫を備えた葬儀社ができてきたようですが、長く置けば費用負担が大きくなります。一方で、焼き場も減っているので、行政にしっかり考えてほしいところです。

ストックホルム市営、森の教会墓地

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