デンマーク、コペンハーゲンの児童虐待防止、家族再生の努力

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元の学校を改造した家族センター

コペンハーゲン市の家族センターを訪問し、児童虐待防止、家族再生、幼児の健全な生育の回復への努力と現場のサービスを教えてもらいました。家族センターは以前はアマー島のコペンハーゲン空港の近くにありましたが、2018年から市の北部の移民が多い住宅街に移りました。責任者は以前と同じグレタさん。

 

市に家族センターはいくつかありますが、センター内のアパートに家族を滞在させて訓練しているのはここだけです。40人のスタッフが従事しています。コペンハーゲン市には社会福祉部があり、ここはその中の障害者課に属しています。障害者課の担当は①問題を抱える児童と青少年、②心身に障害を持つ児童と成人、③薬物乱用者と非行、の3つになります。ここは①の問題を抱える児童と青少年担当の中に入り、2人の係長がいます。A係は措置実行、B係は措置に応じてサービスを提供します。こうした処置はすべて社会サービス法にのっとっています。

虐待を受けた子どもたちが描いた絵

 

社会的分野で働く人は、子どもの虐待を見たら、知ったら、市や警察に通知することが義務付けられています。その通報に基づいて、家族センターが動きます。私たちは電話やメールでケースワークに連絡します。ケースワーカーは24時間以内に調査することが義務づけられています。暴力を使ったとの通報には、数時間以内に判断しなければなりません。

ケースワーカーの緊急調査の結果、さらに調査が必要と判断されれば、児童専門の調査を実施します。調査報告から、今後の行動計画を作成します。保護者とも話合い、協力してもらいながらまとめていきます。どれくらいの期間に、どのようなことを達成するか、を文書に作成し、保護者に実行を義務付けます。保護者が同意しない場合、強制的に措置することになります。家庭外に子どもを引き離すことは、裁判所、市などが実施します。

調査機関が、保護者は子育ての能力がないと評価しても、子どもにとっては親は最も大切な人です。保護者がどういう家族を望んでいるか聞き取り、作りたい姿を把握する必要があります。多くの場合、親が自分が子どもだった時期に、自分の親たちがしっかり世話をしてくれなかったケースが見られます。親たちの過去を私たちは知りません。親しか知りません。親たちから話を聞き、理解し、必要なサービスを提供していきます。但し、暴力を使うことは絶対に認めません。

親と育つことができない乳幼児の養護施設

 

子どもたちが健全に発達していくためには、親たちが健全に発達していかねばなりません。人間の発達で最も重要なのは、幼児期です。出生から2~3年はその子の人格形成に最も大切な時期です。乳児期、幼児期は自分何もできない、壊れやすいときです。母の目を通じて愛を感じます。子の人格は生後3年の間に築かれます。この時期に親の愛を感じられない子は、大人になっても社会生活を滑らかにできない。他社との関係をうまく作れません。そのためか、精神的に不安定な状態になり、精神を病むことになります。また、お酒や薬物、麻薬などに依存するへ向かうこともあります。

問題があるとわかったら、早期に集中的に、全体的な支援を提供することが家族センターの仕事になっています。親との密接な関係がない子どもは、内向的、暴力的、多動的、臆病などの性格をもっています。

センターに来る子どもたちをひきつけるおもちゃ

 

具体的な支援についての動きです。親子関係は妊娠中から始まります。薬物依存症の家族や精神病の家族に対しては、家庭医、保健師、ソーシャルワーカーが母にコンタクトします。そうした専門家が、兆候を見つけたら、家族センターに連絡があります。家族センターは、その妊婦の家族のことを調べます。妊婦の親の子育てがうまくいっていたか、ほかの孫との関係なども調べます。

出産後は、子の発達段階をチェックしていきます。心理的、教育的な観察を続け、母親と面談して、子に対するイメージ、母親との関係などを聞きます。子は自分と同じと思っている母、子が自分のイメージと違うように育っていると思っている母、自分の子が何を考えているのかわからない母などがいます。保護者の同意のもとで家族センターに来てもらい、子どもを遊ばせて、ビデオに撮影し、あとで心理士などの専門家と見て、どういう心理的、精神的状態なのか調査します。調査の結果は、保護者たちに見せて意見をもらい、その意見も添えて、ケースワーカーへ送ります。

通所で学ぶ家族の子育て実習室

 

ケースワーカーは6週間から3か月かけて家族の全体像を作ります。それをもとにどういう家族をつくり上げるか家族と話し合いをし、作業をスタートします。第一段階は、親に子どもを理解させることです。子の表情の意味がわからない親もいます。それはその親の育ち方、育てられ方の問題です。子の怒り、笑い、喜びの表情、意味を教えることからスタートします。小さい目標をつくり、達成してもらい、満足させることが次への一歩になります。これを積み重ねていく。ここにくる親たちは、自分が子どもの頃からケースワーカーの支援を受けている人が多い。親に、親とはどういう存在、役割かを考えてもらい、あるべき姿を教え、それを実現するために今週の目標、今月の目標を設定していく。例えば子どもが小さい時期は、親がアイコンタクトできないケースが多い。今週は、毎日アイコンタクトしていきましょう、というような形で進めていきます。子が小さい時期は、こうした支援の効果は大きいものになります。

コーヒー付のやわらかい雰囲気の中で教えていく

 

家族センターにはさまざまなトレーニングプログラムがあります。

  1. 子をここに預かり、ケアする。期間は3か月、6か月、1年とケース・バイ・ケース。その間、親はここに通い、ファミリーセラピーを受けます。しかし、親の考えや振る舞い、子どもへの接触の仕方に改善が見られない場合には、子を自宅に戻しての生活は無理と判断されることがあります。その場合は、里子を勧めます。子の支援が中心なので、子は数か月であっても成長していくが、親の成長はほとんど望めない。子の将来を考えると、親から離したほうがいいと判断するケースが多くなります。
  2. 家族センターの中にあるアパートに、家族ごと入居させて生活させる。
  3. 自宅に住むが、平日は家族センターに通い、デイ治療を受ける。親は仕事を休職させる。
  4. 週に数日、家族センターに通い、デイ治療を受ける。

    3つある滞在学習家族のアパートの一つ

     

    これらのプログラムの中で①がもっとも深刻なケースです。親とは何か、乳児の扱い方、心理的にどう子に接するかなどを教えていきます。一人の指導員が親子と直接対応する場合と、数人の指導員が数組の家族と対応する場合があります。

    Ⓐ ファミリー・グループワークは、家族ごとの子どもとの接触している姿をビデオに映し、数家族で見ながら、お互いの対応について意見を交換する。

Ⓑ ファミリー・ブック・グループ治療 親たちの多くは継続的な生活経験がない人たちで、里子としていくつもの里親を経験してきた。一つの家庭でつながった人生は経験していない。自分の人生を思い出して文章にして、一つの流れにまとめる作業をさせる。1冊の本につくりあげることを目標にする。その中で幼児期のいやな体験や家族の死などを思い出させ、もう一度考えて家族との関係などを理解してもらう。そして自分の子の気持ちを考えるように仕向け、子との関係を改善させていく。

© ボディ・グルーブ治療 健全な心は健全な肉体に宿る。自分の体がわからないと子の体もわからない。体はこれまでの体験をすべて記録してきた。自分の体への意識が非常に弱い人たちが多い。それを意識させるトレーニングをする。個人的には、マッサージにより体の各部を意識させる。親子関係では、乗馬セラピー。初めての親は馬を怖がる。子を馬に乗せて、親に支えさせる。親に責任感を感じさせ、子に親への信頼感を養わせる。

教育を受ける家族が滞在するアパートの一つ

次の段階に入ると、家族を取り巻くネットワークをつくる。親たちの兄弟、祖父母、親戚、子の保育士や教員、家庭医などを含めて支援圏をつくる。これらの人々を集めてミーティングも持つ。そこでそれぞれの役割分担を決め、一定期間ごとに家族を評価していく。

最後の支援策は、家族センターが家庭訪問して、家の状況を調べる。障害がある子どもや親の場合には、住宅改造の申請もする。無職の場合には、ソーシャルワーカーなどを通じて職業紹介もする。必要なのは、子が健全に発達することができる環境をつくること。そのための支援は惜しまない。友人ができたときに、友の喜怒哀楽がわかる子に育ってほしい。よい社会人になってほしい。幼少時に困難があっても、早ければ回復できる。早期発見、早期対応に全力を尽くしています。

日本ではここ10年ほど、ほぼ毎週一人の子どもが虐待で亡くなっています。1年間で50人前後、10年で500人を越します。先進的な国の多大な努力から学んで、児童虐待をなんとか絶滅してほしいと願ってやみません。

 - 北欧視察・研修

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