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デンマーク、ヘルシンガー自治体の障害者の労働の場

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素敵なデザインの知的障害者グループ住宅

コペンハーゲンから北へ約45kmにある古都ヘルシンガーは、人口約46,000の商業都市です。シェラン島の北東岸、幅わずか4kmほどのオアスン海峡に面し、対岸のスウェーデンとの交通の要所として繁栄しています。対岸はいまはスウェーデンですが、かつてはデンマーク領の時代もあり、政治的、軍事的に重要な地点として10世紀から発展してきました。デンマークは1429年から1857年まで、この海峡を通過してバルト海に出入りする船から通行料を取ってきました。通行料はデンマークの財政を豊かにし、コペンハーゲンやヒレロズなどに豪壮な城や砦、教会、倉庫、海軍人住宅などを建築してきました。ヘルシンガーの海峡にもっとも近い岬には、クロンボー砦が建造され、海峡を通過する船舶を見張ってきました。この砦にまつわる伝説を知ったイギリスのシェイクスピアは、デンマーク国の王子を主役にした戯曲「ハムレツト」を書き、永遠の傑作として今も多くの人々を楽しませています。その陰で、オアスン海峡を通過しないと首都ストックホルムと物資の交易ができないスウェーデンは、通行料を支払わずに済む道を探し、バルト海に面したドイツやポーランドとの交易を活発に行いました。また、北海に面したヨーテボリからスカンジナビア半島を横切ってバルト海に至るヨータ運河を建造しました。

ホイヴァンゲン作業所の手作り家具

ヘルシンガー自治体のホイヴァンゲンにあるヘルシンガー労働体験センターは、知的障害者の労働の場と重度障害者のデイサービス施設です。以前は県の施設でしたが、2007年の地方自治改革で障害者支援を担当していた県が廃止になったので、ヘルシンガー自治体が買取りました。しかし利用者はどこの自治体の人も受入れています。利用料は、利用者が生まれた自治体がヘルシンガー自治体へ払います。軽度の人は1日約5,500円、重度の人は1日約15,000円程度になります。労働体験センターの年間予算は3,000万Dkr、約6億円で、うち10%は作品の販売や下請け仕事など自分たちで稼ぐノルマになっています。作品を販売するブティックは平日の8時半から15時まで開き、クリスマス前とイースター前には製品のマーケットを開きます。

数年前までは、ヘルシンガー自治体に労働体験センターはホイヴァンゲン1か所だけでした。その後、利用者が増えたのと、活動しやすいように、軽度知的障害者のための労働の場を北西20kmのグレステドGræstedに作り、ホイヴァンゲンの施設は重度知的障害者を対象とするようになりました。

木工製品の制作工場

ホイヴァンゲン労働体験センターは、月曜から金曜の朝8時から16時まで開いています。利用者は230人前後でスタッフは65人前後。スタッフの資格は、ペダゴー(保育士、学童の指導員、障害者施設の指導員などになれる社会支援員資格)、大工、職人、教員、作業療法士OTなど。木工と布工芸、食堂、デイケア、の3つの部門があります。利用者は障害者のグループ住宅、アパート、親の家などに住み、基本は自分でここに通ってきますが、移動できない人は自治体が福祉タクシーなどを配車します。利用者は、家賃、食費、余暇などの費用を払うには十分の金額の障害者年金を受給しており、利用者の時給は10Dkr程度で、年金減額はなく、病欠OK、さぼりは減給だそうです。できる人はテキスタイル工房で子ども服、ふきん、キャンピングカーのマット、織物、自分たちで考案した犬小屋などの木工品などの製造に従事します。18歳から65歳の重度知的障害者は、車で10分ほどにある知的障害者居住・余暇施設SPUCの中にあるデイサービスでゲームやコラージュ作り、歌、演奏などの好きなことをやります。1対3の対応で、利用者は無給、利用料は不要です。

薪はよく売れるそうだ

グレステド(グールヴェイ通りGydevej)にある軽度障害者を対象とする労働体験センターCenter for Job og Oplevelser  Nordvesの利用者は110人で、スタッフは35人。利用者の10%がデンマーク社会の健常労働者と同じように10時から14時をコアタイムとしてのフレキシー労働を認められています。食堂でのパンのバター塗り、レジ、掃除、建物のメンテナンス、プランターや垣根作りなどの木工、金属工房、暖房用のマキ作りと販売、花卉栽培、縮小したが野菜作り、ハーブ作り、魚の燻製作りなどかなり多彩な仕事をこなしています。そのなかで、暖房用のマキ作りは人気があり、今年の冬の分の予約が埋まっています。また野菜作りは、外国産の野菜に価格で負けてきているので、縮小しています。ニュース紙の作成、施設内の郵便配達、電話受付や施設所有の車の配車などの総務的業務も分担しています。2014年から8人の利用者が30分のテレビ番組を作成し、ローカル局で3月から毎週放映しています。これらの業務を通じて、チーム作りのための体験をしています。仕事を通じて季節的な野外活動をし、身体を動かし、人々との交流や社交を学び、成長することが目標になっています。休日や夏休みには、利用者の希望に基づいたセミナーや活動プログラムが実施されます。健常者と同様、職場恋愛、片思い、いじめなどがあり、指導者たちは当人たちと十分に話しあいをして、その場その場で解決するようにしているそうです。

人気商品の一つ

若い利用者たちの多くが、グレステドの中で行われているSTUという教育を受けました。これは2007年の自治体改革以後にできた教育制度で、通常の学校に行けない16歳から25歳の人たちが3年間通います。STUとは「特別に企画された教育」と命名された教育で、教科書は使わず、外国での研修や課外活動、できるだけ手を使う体験活動などを通じて生き方や社会を学んでいきます。作業施設の中の学校なので、学んだことを工房ですぐに試すことができるのが利点です。現在20人が学んでいます。

ヘルシンガー自治体の労働体験センターは、ホイヴァンゲンとグレステド作業所だけでしたが、2011年からは自治体内に新しくできた知的障害者の居住と余暇の施設「憩いの場」SPUCの中で、午前から午後にかけて重度知的障害者のためのデイサービスを運営しています。またグレステドの障害者の学校STUの運営だけでなく、市内に16戸のSTU学生寮も運営しています。施設外では自治体内にある国民高等学校(デンマークで始まった農民教育学校からいまは成人教育学校として全国に普及)の食堂、市内の2つの基礎学校の食堂で、労働体験センターで訓練した人たちがそこで働けるようにしています。さらに市が森の中にネイチャーセンターを作り、そこで生活保護の人たちに職業訓練する仕事を労働体験センターに依頼してきました。ここまでくるとかなりの仕事量になります。しかし、一方では機械化が進み、障害者ができる仕事が減り、平等の建前のもとで労賃の安い障害者が作ったものでも健常者と同じ料金で販売することなどが決められ、外国資本や外国産製品、大企業などとの競争に取り込まれ、厳しい現実に直面させられています。毎日同じことの繰り返しでなく、独自のアイディアの製品を作る、社会の要求に積極的に応えるなどの対応をしないと認められなくなってしまいます。特に景気が悪いときには、独自に考案した個性的なものを売らないとだめで、ビジネスマンのセンスが必要です。

デンマークでは、一般的な傾向として、羊水検査が義務化されてからダウン症の人が減りました。しかしADHDやアルペルガー症候群、自閉症の人たちは増えています。国連の障害者インクルージョン推奨により特別保育園や特別学校の閉鎖が進み、普通保育園や学校にインクルージョンされる障害児たちが増えました。インクルージョンは障害児にも健常児にも、ともに意味があるとの主張がありますが、自分を負け犬と思う障害児たちが増えたのが現実です。この決定が本当に障害児たちのためになっているのかという疑問が社会に湧いているので、このところは様子見状態になっています。一方で、知的障害のない、アルペルガー症候群、自閉症の人たちの専門学校は増えていると聞いています。障害者を巡る支援については、これからも紆余曲折、施行錯誤が続けられていくことでしょう。

倉庫を改築した自閉症専門学校

 

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