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デンマークの障害者多機能施設リンデガーデン

 最終更新日  

デンマークで最も日が長い時期の6月の午後に、コペンハーゲンの郊外40kmほどにある障害者多機能施設リンデガーデンを訪問しました。10年ほど前に、王室の夏の住居であるフレーデンスボー宮殿を見に行ったときに通りかかり、モダンな住宅から出てくる数人の重度障害者を見て、機会があったら中を見せてもらいたいと思っていました。今年、ヘルシンガーの障害者多機能施設訪問を断られたので、代わりとして申込んでみました。断られたくないと思いながら申込みしたら、2週間が過ぎた頃、施設長のヘレ・ピーターセン女史からOKメールが届きました。

障害者住宅
楽しみにしていたからか、天は私たちに味方してくれ、その日は晴天でした。ゆるい起伏が続く高速道路を降り、黄色の菜の花畑や背の高い林、茅吹き屋根の農家や赤レンガ建ての古民家の眺めを楽しんでいると、フレーデンスボー宮殿の衛兵の姿が見えてきました。宮殿の垣根に沿って走り、施設の前の通りに入っていきました。
建物は横に長い平屋の建物で、玄関のガラス戸に「リンデガーデンにようこそ」、その下に建物全体を上から見た概略図が描かれていました。
バスの姿を見たからか、職員が姿を見せ、私たちを招き入れてくれました。ガラス張りの玄関は明るく、グレイの床と白い壁を基調とした落ち着いた色づかいは、いかにもデンマークの住宅です。
靴のままで導かれて入った会議室。20人も入れば満室の部屋で、ヘレ施設長が飲物を用意してくれていました。
「まさか日本からここまで視察に来るなんて、思ってもいなかったわ。東欧の人たちはよく来るけど、日本からは初めて。うれしいわ。このポットはコーヒー、こちらお湯」
こんな第一声を聞いて、喜ばない人はいないでしょう。ここに申し込んでよかった。
ヘレさんの説明です。ここには障害者住宅、障害者デイケア、障害者に関する講演会や専門スキル学習セミナーを開催するコミュニティセンター、自治体内の障害者住宅に住む人々を支援する住宅サポート、18歳から25歳までの障害者を3年間教える学校STUの5つの機能があります。今日は、障害者住宅と障害者デイケアをお見せします。
住宅は3棟あり、各棟に12アパートあります。住宅1と2は1979年に建てられました。そこに私たちがいます。あとでご案内しますが、アパート部分は30㎡ほどで、居間とトイレ・シャワーがついています。当時の基準に沿っているので、そんなに広くありません。代わりに共用スペースはたっぷりとられています。共用スペースで、3棟の住民がみんなそろって食事をしたり、クリスマスのような季節の催しを楽しんだりします。どちらの住民も、言葉を持たず、日常生活と食事に支援が必要で、ほとんどの人が車椅子を利用しています。てんかん、痙縮、発達障害の1種のレット症候群、結節性硬化症などの病気を持つ方もいます。いまは皆さん、デイケアに行っています。
 2つの住宅ができて30年を経て、議会はさらに住宅を増やすことにしました。2013年に住宅3が完成し、居住を開始しました。アパートは約40㎡の広さがあります。住民は発達障害、痙縮、自閉症などの障害をもっています。コミュニケーションできない人には、絵文字などのツールを使っています。昼間はここを出てデイケアに行っています。町にあるフィットネスセンターに通っている人もいます。

各アパートから庭へ出入りできる

 3棟の住民たちはみんなでゴミ出し、洗濯、食事の準備、片づけなどの毎日の雑用を職員と一緒にやっています。そのほかにウォーキング、サイクリング、バスでの外出も毎日やっています。
 それでは住宅の見学に行きましょう。この部屋、鍵をかけますから、貴重品以外はここに置いておいて結構です。
 ロビーの壁に掛けられた60インチほどのモニターの前で、建物の平面図を表示して説明です。古い部分はロの字型に建てられていて、真ん中が広い共同スペースになっています。ロの字の左右にアパートが12邸ずつあり、グループホームのようになっています。ロの字の右側に新しい住宅3があり、左側がデイケアになっています。ロの字の奥は庭で、ガラスハウスがあるとのこと。何を意味するかわからないので、見てのお楽しみにします。
広いキッチンの隣にある共同スペースに入りました。高いガラス張りの天井から光がたっぷり入るので明るい。観葉植物と花が生きるインテリア。壁ぎわに白いアップライトピアノが置かれ、その隣のキャンバスにかけられた水彩画が鮮やか。住民が描いたものでしょう。今日は催しがないのか、上からハンモックがぶら下がっています。
奥のグレイの床の部分は物置で、トランポリンや折り畳みベッド、テーブル、椅子、扇風機、講義用スクリーンなどが置かれていました。
 アパートへ向かう廊下の入口の床には赤い矢印。自分の部屋がわからない人のために、部屋まで点々とついています。
 男性の部屋を見せていただきました。入居が始まってから40年になります。住民は歳を重ねてきました。最高齢の方は81歳です。フレーデンスボー議会は、住民に感覚刺激を多く与えてほしい、と私たちに要望しました。2羽のインコが鳴いていました。壁のひとつには、親族や友人や旅行の写真と絵がぎっしり貼られ、円卓の上には本や雑誌、筆記用具がいっぱい。もちろん32インチの液晶テレビやCDプレイヤーもあります。健常者よりも刺激的な生活をされているようです。

食堂など多目的に使える広いホール

 職員35人。配置は、昼間は1棟12人に対して4人、夜間3棟36人に対して2人で、社会指導員のペダゴーと社会福祉アシスタント(ヘルパー)が担当。ペダゴーは養成大学で3年半教育を受けた専門職で、職員の9割を占めます。ほかに看護師、言語療法士が各1人で、職員の専門性を重視しています。自治体雇用の作業療法士、理学療法士は週に数回きます。
夜間2人はきつくないですか?
夜は眠る人が多いけど、体位交換、おむつ交換で忙しい日もあり、静かな日もあります。夜勤職員は夜だけくる夜勤専門なので、住民の夜間の行動をよく知っています。
 家族が会いに来る人もいます。家族の人はここに泊まることはできませんが、家族と一緒に旅行に出たり、自宅で数日過ごすことはできます。ここに入居してから、自宅に戻った人はいません。住民が亡くならない限り、空きはでません。いま5人が待っています。自治体にはほかに5人が住むグループホームが1か所、6人用が2か所あり、さらに市内の各所に独立したアパートが35人分あります。機能を揃えることもあるので、空きが出てもどこに入るかはわかりません。入居できるまでは在宅でヘルパーなどの支援を受けて暮らしています。グループホームには、別々の部屋に住みながら、25年も恋愛関係にある重度障害者カップルがいます。この自治体には1組だけです。

この通路の向こうが、6年前にできた住宅3になります。住宅1と2よりは広くなっていますが、車椅子やリスト利用者もいるので、このくらいは必要です。住民は障害者年金を支給されていて、そこから家賃と食事代を払います。金銭管理ができない方は、後見人が支援します。後見人は保護者、弁護士、施設職員などが指名されます。金銭管理だけを担当します。2019年6月に実施された総選挙に当たっては、投票日の3週間前に自治体の担当者がここに来て、住民に候補者の説明をしました。実際に投票したのは5人でしたと、ヘレさんは少し笑いました。たぶん、ほかの住宅ではもっと投票するのに、うちの人たちは積極性がなくて、という意味を込めての照れ笑いと勝手に解釈しましたが、どうでしょうか。
 廊下を回って庭に出ましょう。あの総ガラス張りの小屋は温室ですから、冬はここにいれば暖かいし、夏でも窓を開け放って昼寝ができます。感覚の小屋と呼んでいます。40人くらい入れるので、テーブルや椅子を持ち込んで誕生パーティーを開くこともあります。
この周りの緑の広場は香りのいい植物や花が広がっていて、感覚の庭と呼んでいます。認知症グループホームに造られて効果があったので、障害者施設でも利用しています。住人たちに刺激を与えてくれます。
 リンデガーデンの目標は住民の機能を保持し、発達をうながして、一人一人の生活の質を高めていくこと。そのためには、職員の資格の向上とスキルの拡大が大切です。そして、組織の成長。ダイナミックで透明な組織にする。住民第一に対応し、住民と家族と職員がいい関係を築く。住民のほとんどは言語を持っていないので、自分の意志や感情をうまく表現できません。それでも声を出したり、手足を動かしたり、頭や目を使って、自分の気持ちを伝えようとしている。人間はほかの人間とコミュニケーションしたがる。職員はそれを理解しないといけない。表現は毎日違い、時間によっても違う。常に気持ちを汲み取ろうと努力しなければならない。住民たちの心からの呼びかけにこたえなければなりません。
そのために住民の動きをビデオで撮影して、それを見ながら職員たちが考えるマルテ・メオ・プログラムを取り入れています。オランダ人女性が1970年代に開発した、児童虐待防止や保育技術向上のプログラムですが、いまは認知症や障害者の支援にも使われています。マルテ・メオを勉強してセラピストの資格をとった専門職員もおり、新入職員の教育にも効果があります。職員の教育には、ほかに組織の目標、理念を書いた冊子を作って勉強させています。

デイケア施設リンデン

庭に配置された楽器群

それでは隣にある、リンデンにいきましょう。デイケア兼アクティビティセンターです。リンデガーデンの住民たちは、昼間はリンデンに行ったり、別の自治体にあるスヌーズレンハウス、コンサート、チボリ、映画館、レストランの訪問など、家の外での活動を積極的に行っています。社会サービス法104条に準拠した、日中の活動プログラムです。
建物は1989年に建てられました。このドアは、閉まったら外からは鍵なしでは入れないので、続いて下さい。利用者は、リンデゴーデンの家1、2、3からとほかのグループホームの居住者、それに隣接する自治体の住宅に住む人たちです。対象になる人は、身体的、精神的、知的な障害を持つ成人であり、機能のレベルは人によって異なります。
スヌーズレン部門では、ボールプール、上から垂れ下がるファイバーライト、ミラーボールなどが見えました。この時間には利用している人はいませんでした。
見知らぬ人がくると不安になる人がいるので、さっと見て下さい。アクティビティセンターに入ると、大きな天窓の下で、利用者たちが様々な器具を使って運動や活動をしていました。ウォーキングマシーンとか、エアロバイクがあり、ここで初めて、多くの利用者たちの障害がかなり重度であることを理解しました。職員はほぼ1対1で対応しています。ブランコに座り、大きな声で叫びながら、ずっと漕ぎ続けている大きな男性。見守る職員は慣れているのか笑顔ですが、大きく漕ぎすぎないように監視を絶やさない。部屋の奥では、床に座りながら、腕と上半身を使って同じ行動を繰り返す人がいます。常同行動ですね。自閉症の方なのでしょう。
リンデンの職員の仕事は簡単ではなさそうです。大声で叫び続ける人に対して、職員、利用者とも防音イヤーマフをつけていません。耐えられる人たちなんですね。叫ぶのはデイケアにいるときだけではないはずです。住宅の中でも、叫ぶのは想像できます。叫び続ける人も大変です。たぶん子どもの頃からブランコが好きで、漕ぐと気持ちがよくなって叫んできたのでしょう。喉が痛くならないのが不思議です。でも、これがこの人の気持ちを伝える方法なのでしょう。ほかの人たちへの呼びかけです。
3年前にデンマークのスカナボーにある大型障害者住宅スーロンのグループアパート群を視察したときに、職員と住民全員が防音イヤーマフをつけている棟がありました。施設長は、胃が弱い人が一人いて、痛くなると叫ぶのです、と苦笑いしていました。いつ叫ぶか予測がつかないから、いつも防御している。スーロンでは、その人を隔離するのではなく、ほかの人たちが自らを防御している。イヤーマフをつけさえすれば、一緒に暮らしていける。その選択をしていました。リンデンでは、イヤーマフをつけずに受け入れている。どちらにしても素晴らしいことと感心しました。

車椅子で乗れるブランコ

裏庭に出ました。雨に濡れても影響を受けない鉄琴やいくつもの打楽器、ツリーチャイムが鳴らされるのを待っていました。その隣には、車椅子で乗れるブランコ。利用者たちに刺激を与える材料が並んでいます。
ピーターセン女史からのまとめの言葉です。職員たちは、共通の理念を持っていても、対応の仕方はそれぞれで違います。大枠がしっかりしていれば、多少の違いがあってもいいし、ひっかかったら議論すればいい。常に好奇心を持ち、自分の専門性を向上させようとする気持ちが大切です。
ここは職員のための施設ではなく、障害者のための住宅と施設であることをつくづく感じました。

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