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コペンハーゲンの障害者余暇センター

 最終更新日  

               余暇センターの入口。中は広い
 障害者に対する支援で、まだ日本が採り入れていないテーマを探していたら、デンマークで成人障害者の余暇施設が見つかりました。1996年のことでした。そのときに訪問したのが、コペンハーゲン市にあるラヴックVoksenklubben LAVUKです。説明してくれた方は、最近は予算が削られて、いずれは消えることになるかもしれないと悲観的な観測をしていました。いや、それは困ると思ったのですが、しっかり今も、利用者数を増やして、存在しています。
 ラヴックの成立ちは1950年代の初めに流行したポリオウイルスによる小児麻痺が、きっかけになりました。ポリオは1950年代の終わりにワクチンができて、欧米では下火になりました。
しかし、この被害は、社会的にも文化的にも大きな影響を与えました。すでにバンク・ミケルセンの提唱により、障害者のノーマリゼーションが「1959年法」に規定されていましたが、さらに具体的に障害者の自立、平等を求める運動が大きくなりました。病気から回復しても後遺障害が残った被害者たちが、自立を求めて運動し、国は靴製造や洋服縫製などの手仕事の講習会を開きました。そうして仕事を得た人たちが、労働時間のあとの余暇の場を求めて動きました。1963年にポリオ被害者たちは自分たちの手で、余暇活動の場を作り、ボランティアたちが協力しました。その後、コペンハーゲン市が引き継いで、若い障害者のための余暇プログラムを開始しました。

会話を楽しむ利用者


私たちは、デンマークで障害者支援視察の希望を受けると度々ラヴックをご案内してきました。障害者の人生を豊かにする場として、こういうものがあると知っていただきたいからです。いまは市内4か所に増え、うち3か所が26歳以上、1か所が13歳から25歳の施設です。利用者は市の内外20の自治体住民に広がっています。2019年に視察した、26歳以上上限なしの障害者のための成人クラブ・ダグセンター・ストロッダメンの様子を報告します。コペンハーゲン市庁舎から北へ5kmほどにあり、すぐ近くに公共バスの停留所があります。施設長のペーター・サンネマン氏が説明してくれました。
 ダグセンター・ストロッダメンは、知的障害者と身体障害者の余暇活動の場です。デンマークの社会サービス法(1998年)は、「障害があるために特別な負担をかけてはならない」と規定しています。この趣旨に則り、コペンハーゲン市は障害者たちに、同じ年齢層の成人たちと同じような活動を提供しています。各種のスポーツ、音楽や手芸、絵画、彫刻などの芸術、コンピューター操作、ゲーム、さらに旅行やキャンピングなどにも参加できるようになっています。

演奏者も聴衆も利用者


施設の方針は、利用者たちが望み、考えた活動ができるようにする。これはポリオ被害者たちが、余暇活動を立ち上げたときの理念であり、いまも大切に受け継いでいます。利用者たちは、あれをやりたい、これをやりたいと言います。ここには利用者委員会があり、利用者からの希望を委員会に提出して、提案者や委員たちが議論を重ねて、毎年の活動を決めます。委員会は経済的なことや人事にはかかわりませんが、運営時間や夕食のメニュー、家具の配置や補助器具、トイレ、送迎車の状況などについて、希望や意見を出してくれます。利用者たちは自分たちのクラブであるという意識を強く持っています。それはとても大切なことですし、私たちにとって嬉しいことです。ここにくることが楽しいと思ってくれています。明るい顔でやってくるし、様々な活動に参加してくれる。ここで人々と会話し、悩みを語り合い、冗談を言い合い、いつか恋に落ちる。普通の人たちと同じような感情をもって、同じような暮らしができるように支援しています。
運営組織は社会福祉法人で、理事会は全国障害者連合(DHF)代表2名、利用者の保護者代表4名、全国知的障害者親の会(LEV)代表1名、利用者代表1名、職員代表1名で構成されています。理事長はDHF代表。財政、施設長人事などはこの理事会の管轄です。利用者は年間175Dkr(約3150円)の会費を払います。運営費用は、利用者が生まれた自治体が払う利用料で賄われています。利用料は、要介護度により、軽い人は1回485Dkr(約9000円) 、重い人は2000Dkr(約36000円)が2019年費用で、物価により変動します。利用の流れは、まず親、友人、ソーシャルワーカーなどの利用者の周辺の人が、本人に余暇活動があると知らせて、本人が行きたいという意思を示したら、ラヴック職員と面談します。介護度を査定し、費用の積算をして自治体へ提出。自治体のソーシャルワーカーが査定し、予算を決めます。送迎費用、重度の場合はタクシー利用、自分でくる人の交通費も自治体が負担します。
会員数はダグセンター・ストロッダメンだけで250人前後、ラヴック全体では650人。
開所時間は、月曜から金曜の18時~22時。7月は1か月休みにして、希望者と旅行に行きます。クリスマス、イースターも休みになり、開所日は年間約200日。
1日の利用者数は、月曜・水曜が平均100人、火曜・木曜が平均60人、金曜が150人。金曜はパーティがあるので人気があります。
              道具を使って懸命に話てくれる
利用者の住居は、障害者のためのグループホーム、自分のアパート、親と同居など。平日の暮らしは、6時に起きてシャワー浴、朝食。8時~15時が仕事。帰宅し、休み、17時頃から外出、18時から22時はここで過ごす。帰宅は23時、就寝は24時。この生活が毎日はきついので、余暇活動は週に2~3回程度利用の人が多い。同居している親にとっては、負担の軽減になっています。利用者の8割は、ここで自費で夕食を採ります。18歳以上の障害者は早期年金を受給しているので、家賃や食費、ここの会費などの個人的な経費は自分の財布の中から支払えます。
利用者の障害の種類は、自閉症、ダウン症、発達障害、脳性まひ、脳梗塞、事故での脳機能障害、わすかですが、精神障害者もいます。知的障害者と身体障害者を一緒にしていますが、問題はありません。身体障害者には補助器具で支援します。
利用者委員会は12人の委員から成り、委員は自分から立候補した利用者たちで、利用者たちの投票で選ばれます。任期は4年で、会議は年に10回程度開かれ、活動プログラムの選択、旅行の回数や行先、夕食の価格、1人が飲んでいいビールの限度本数などを決めます。職員が支援しますが、決定権は委員だけにあります。
ダグセンター・ストロッダメンの職員は60人で、フルタイムは6人、ほとんどがパート労働で、福祉を学ぶ学生が多い。デンマークでは、パートであってもそれなりに保障があるので、37時間のフルタイムではなくて、パートで暮らす人たちも多い。看護師や理学療法士などの医療の専門家は、市から定期的にきてくれる。施設長をはじめとして生活支援員(ペダゴー)が多い。活動の専門家、画家や裁縫技術者、木工技術者、スポーツ専門家なども重宝される。有能な職員は、利用者ができることを見つける能力を持つ人、利用者の自信を引き出す能力がある人とみんなに言っています。1日の職員配置は、利用者数によって異なり、金曜は150人に対して30人、少ない日は60人に対して8人。仕事はここだけでなく、王立劇場での観劇、地域のスポーツクラブでの水泳やトレーニングなどにも同行支援しています。
プログラムは利用者の希望で変わりますが、いまはパソコン・カフェ、バンド演奏、コーラス、演劇、絵画、テキスタイル、シルクスクリーン、クッキング、お菓子作り、ボーリング、乗馬、サッカー、フロアーボール、フィットネス、水泳、旅行などを取り上げています。スポーツ関係はここではなく、それぞれの施設へ行きます。フィットネスや水泳は、地域のスポーツクラブでふつうの人たちと一緒に楽しみます。利用者にふつうの人たちの活動の中に入ってもらい、積極的に動いてもらいます。はじめはお互いに違和感があったようですが、いまは会話を交わせるようになっています。
スポーツを重視しており、みんなでサッカーの試合を見に行くこともあります。数年前に、私たちのチームが、障害者フロアーボール選手権で全国4位になりました。テレビ番組でも紹介され、ここで働きたいという問い合わせが急増しました。

その人の得意の器具で話してくれる


一番の人気は旅行です。毎年平均7回くらい旅行を企画します。2018年には延べ175人が旅行に参加しました。1月はイタリアにスキー、2月はノルウェーにボブスレー、7月の夏休みにはイタリア、ギリシャ、スペイン、中国に行きました。施設長は1年間で42日間も同行支援しました。経済的な旅行にするために現地の受入れがいいところを探すなど、準備は簡単ではありません。旅行費用は、利用者は自己負担ですが、財団や慈善団体などに寄付をお願いして負担を軽くしています。職員の旅行費用も利用者負担です。障害者と暮らす親にとっては、旅行の1週間は骨休めになります。旅行のために寄付してくれる親もいます。
ラヴック全体の行事として、毎年5月にラヴックストック・コンサートを開催しています。1969年にアメリカで行われたウッドストック野外コンサートにちなむもので、私たちの青年部の運動場で、朝10時から22時まで様々な音楽グループに演奏してもらいます。ほかにもサッカーやフロアーボールの試合をしたり、アート作品の展示バザーを開いたりしています。
2019年6月5日に国政選挙があり、社民党が政権奪取しました。利用者委員会は、利用者たちが一番いいと思える人に投票できるように、説明会を開きました。その結果、脳性マヒの方も当選しました。また、利用者の中の3人が選挙管理委員として活躍しました。彼らの希望を政治家に伝えるいい機会になりました。2018年は地方選挙があり、コペンハーゲン地区の候補者たちに来てもらい、考えを語ってもらいました。様々な質問がでて、候補者たちを驚かせていました。来週の6月19日には政党の代表と、今回議席を得た政治家たちが、支持者たちと意見交換する場が開催されます。利用者たちと一緒に参加して、ラヴックや障害者からの要望などを話してくる予定です。

ラヴック内のCafe。コーヒーやビールが買える


最後に施設長は次のようにまとめてくれました。いまの障害者の権利は、自然に与えられたものではありません。多くの先人たちの長い間の努力によって、少しずつ社会に根付き、制度や法律として障害者たちを守ってきています。しかしまだ、平等を完全に獲得しているわけではありません。これからも気を許せば、逆戻りするかもれません。まだまだ努力が必要です。日々の小さい戦いを通して、より良い条件、より良い生活ができるような社会を作っていきたいと願っています。
私たち職員は、このクラブの仕事を通じて、今日も新しいことを学んだと思いながら帰宅できる。ここで報酬を得ながら仕事を続けていられる人生はとても楽しく、幸せを感じています。
2016年に訪問したときは、施設長が旅行中で、若い職員カスパーが説明してくれました。彼は、ここでアルバイトをしていて、自分の職場にしたいと思うようになり、社会支援者養成大学に入りました。4年後に社会支援者の資格を取り、ここの職員になりました。誇りを持って、希望を持って、この仕事を生きがいにしたいと思って働いている人たち。彼ら、彼女らに支えられるデンマークの障害者たちは、それぞれに悩みを抱えているでしょうが、表情は明るいし、日々の時間を楽しみながら生きているように見えます。訪問した皆様も、帰りは和やかな顔つきになり、路線バスで一緒になった利用者たちと、身振り手振りで交流しながらホテルへと戻りました。

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